すう、すう。静かな一室で、耳に響くのは彼の寝息。ベッドに視線を泳がせば、すやすやと気持ち良さそうに眠る豪炎寺の姿が目に映った。彼の寝顔を見るのは、たぶん3回目くらいだったと思う。なんせ彼の寝顔はレアだから、先ほどからちらちらと視線を向けては、かっこいいなあ、なんて呟いたりして。自然と頬が綻ぶ。 最近豪炎寺とは、あまり会っていなかった。サッカーの練習が想像以上に厳しいのだとわたし自身理解していたから、それは仕方のないことだと思っていた。だからこうやって、彼との時間ができたら嬉しい。当の本人は、疲労のせいか眠ってしまっているけれど、それでもわたしは満足だった。 まじまじと見惚れてしまうくらい、彼の寝顔は本当にきれいだと思う。まるで絵に描いたような、端正な顔。わたしはポケットから携帯電話を取り出すと、少しの罪悪感を覚えながらもカメラを起動させた。これ撮って待ち受けにしたら、当分会わなくても大丈夫な気がする。勝手に撮っちゃってごめんね。心で呟きながら、シャッターを押そうとすると、不意に友人からの着信が。 「なんと間の悪い…」 友人のタイミングの悪さを恨みながら、通話ボタンを押すと友人の明るくハツラツな声が電話越しに聞こえた。豪炎寺の様子を窺いながらも、極力小さな声で、彼を起こしてしまわないようにこそこそと話し始めた。 友人の電話はとても長かった。わたしが通話料のことを気にすると、 『そんなのわたし持ちなんだから、あんたは気にしなくていいのよ!それより聞いてよ!あのね ─────』 とまた永遠と話し始める。豪炎寺が起きないか、はらはらしながらも、うんうんと頷いて友人の話を聞いた。 サッとシーツが擦れる音がして、勢いよく後ろを振り返る。どうやら豪炎寺は寝返りを打っただけのようで、起こしてしまったわけではなかった。ふう、と安心の息を吐いて、また友人の話を聞く。うんうん、そっか。おお!よかったね。相槌を打っていると、不意に後ろから 「……」 豪炎寺の声が聞こえた。急いでまた振り返った。まだ覚醒しきれていないうつろな目で、豪炎寺は右手で手招きをする。なんなんだ、一体。おそるおそる彼に近寄った。左耳からは友人の元気な声が聞こえる。けれど内容は全く頭に入ってこなかった。豪炎寺のすぐ傍まで行くと、彼はもう一度わたしの名前を呼んでから、ぐいっと力いっぱいに腕を引っ張った。 「うわあ!」 勢いよく彼の胸へ雪崩れ込むと、彼はぎゅっと苦しいくらいに抱きしめてくる。 『なに!??どうしたの!』 電話越しに友人の声が響く。豪炎寺は唐突に電話を切ると、わたしの携帯電話をそこらに放った。ぎゅ、ぎゅ。さっきより強い力で抱きしめられて、わたしは苦しくなって 「ご、えん、じ」 と彼の名前を呼ぶのだけれど彼はやめなかった。 「、」 耳元で囁かれて、身震いがした。 「充電、させてくれ」 そう言ってキスの雨を降らせた彼に、わたしは何も言えなくなった。 メルト・メルト・ダウン 執筆:20101218 |