「俺さが好きなんだ」

 うん。知ってるよ。わたしがゆっくりと頷くと、一之瀬はもう一度確かめるように、「、好きだよ」とポロリと零した。一之瀬はこのようなことを惜しみなく言葉にしてくれて、わたしに伝えてくれる。わたしはそれがとても恥ずかしかったのだけれど、この上なく安心できたしうれしい気持ちが胸いっぱいになった。だけどいつも心には、対となる思いがもやもやと心に蹲っていて、一之瀬が好きだと言ってくれるたびに、わたしの心臓はだれかに握られているような感覚に陥った。くるしい。そう思っていた。

、」

 一之瀬がもう一度言おうとしたものだから、慌てててのひらで口を覆ってしまう。彼は驚いた表情を向け、一体どうしたんだと言いたげな目をする。
 別にわたしはその言葉を言ってほしくないわけじゃない。でも、なんていうのかな。毎日毎日聞いているとそれが慣習となってしまって、それがわたしの基準になってしまう。それが『当たり前』だと思い込んでしまう。だから、それがないと堪らなく不安になってしまったり、さみしくなってしまうのが、すごくいやで。うん、つまり、なんていうのかな。

「あんまり言ってばかりだと、軽いと思われちゃうかな」

 はは、と渇いた声を零して、彼は苦笑いを浮かべた。見ているこちらが辛くなってしまうような表情だ。また、ぎゅっと心臓が握られる。いや、握られるというよりも、握り潰されてしまうような、強い感覚。くるしい。こっちのほうが、「好き」と言われたときより数倍も。くるしい。
 「もったいない、から、」 そのくるしさを吐き出してしまうように、言葉がポロリと転がった。目を丸くした彼に、もどかしさを感じながら、だからね、と小さな声で続ける。

「一之瀬の好きが、これから先も、ずっと、ずっと、続くように、してほしい、から、」

 彼は目を丸くした。そして、ほんとうに心からうれしそうな笑顔を浮かべて、 「やっぱり俺、、好きだ」 また同じ言葉を繰り返す。



ピンクドットの恋をしてるわ
執筆:20101219