突拍子もないのは、いつものことだ。サッカーを始めたのも、東京へ行くと言い出したのも、なんの前触れもなかった。毎回能天気な笑顔を浮かべて、人の気持ちなどお構いなしに、突っ走っていく。そんな身勝手な彼に、わたしはいつも振り回されていた。だから、今度こそは何があっても動じない。そう、思っていたのだけれど。 「なあ、そろそろ俺ら、付き合わねぇ?」 ぱちぱちと携帯電話を触る手を止めて、条介は唐突に切り出した。 「は、はい?」 わたしは言葉の意味がよくわからなくて、ベッドに図々しく横たわっている人物を見た。条介は再度、マックに行かねぇ?みたいな軽いノリでさっきの言葉を繰り返した。思わず、目が点になる。何を言っているのだろう、この男は。冗談にしては、あまり面白くない。無意識に、眉に皺が寄った。 条介にじっとりと疑いの眼差しを向ける。だけれど彼は全く気にも留めず、 「なあ、返事は?」 と先程の冗談を続ける。わたしは、そんな彼に盛大な溜め息を吐いた。 「相手にしてほしいからって、そういう冗談、可愛くない。」 声を少し強くして言うと、彼はむっと表情を強張らせた。 「はあ?冗談でこんなこと言うわけねぇーだろ。」 条介はいつになく真剣な表情をしていた。まるでサーフィンやサッカーをするときみたいに、真っ直ぐにわたしを見つめた。熱の篭った視線だと感じた。到底冗談を言っている顔には思えなくて。急に恥ずかしくなって、条介から視線をはずした。どくどくと奥のほうから、脈打つ心臓の音が聞こえて、思わず耳を塞ぎたくなった。こんなの、おかしい。やかんが沸騰するみたいに、ぷしゅーと噴出しそうになる。 「なあ、。」 いつもより低い声で名前を呼ぶものだから、ドキリと心臓が跳び上がった。徐々に距離を縮めてくる条介に、待ってという暇もなく、二人の距離はゼロに等しくなる。 「返事、聞かせろよ。」 そう言った条介の声が耳によく響いて、残る。頬に熱が集中するのがわかった。 う、うん、と素直に首を縦に振れば、条介はぱあっと笑顔を浮かべて、そのままわたしに抱きついた。 開幕のカンパニュラ 執筆:20101222 |