ごろん、ベッドの上で寝返りを打った。いつも漫画を読み耽りながら寝転んでいて思うのだけれど、竜吾のベッド、というかお布団は、毎度ふかふかしていてお日さまのやさしい匂いがする。とても安心する匂いで、漫画を放り出してついつい寝てしまうのだけれど、彼はそれを許さなかった。 『ここで寝んな、邪魔。』 決まってそう言われて、ベッドから追い出されてしまう。その度わたしはケチくさいなあ、と毎回同じようなことを、ぶつぶつと文句を垂れる。
 寝返りを打てば、わたしの視界にピンクがぽつりと現れる。漫画を読むふりをしながら、ちらちらとそちらへ視線を泳がせては、読んでもいないページを何度も進ませる。視界に竜吾が入るだけで、ちっとも漫画に集中できない。こりゃ駄目だ。そう感じてパタンと漫画を閉じた。起き上がって、竜吾の隣に腰を降ろすと、彼は 「なんだよ。」 と言いながらわたしと距離を置こうとする。負けじとわたしは彼に擦り寄る。 「だからなんなんだよ。」 竜吾の声が少し強くなった。

「べつに」
「じゃあ、んなにくっつくな。暑苦しい」
「いいじゃん」
「よくねぇから言ってんだ」

 竜吾は読んでいた漫画を閉じる。心底いやだ、と言いたげに眉を顰めているわりには、なんだか耳があかい気がする。それになんだか笑えて、うれしくなって、じっと竜吾を見つめたあと、 「それじゃあ、」 と言葉を続けた。


 ───── くっついてもいい?

 できるだけ甘い声で、おまけに首をちょこんと傾げてみた。そうしたら、竜吾は勢いよく顔を背けて、少しの間黙ったあと大きな溜め息を吐いた。 「…しょうがねぇな。」 諦めたように呟かれた一言。心底いやそうな声色だったのに、わたしの頬は緩み切る。だって、竜吾があまりにも顔をあかくして言うんだもん。胸がぎゅっと締め付けられて、わたしは思わず竜吾に腕にぎゅっとしがみ付いた。



その溺れ方がすき
執筆:20101216