「食べちゃいたいな。」


 まだ昼間だというのに薄暗い空き教室。窓辺には黄ばんだカーテンが重たくぶらさがっていた。使用されていない机や椅子が何段にも高層ビルのように積み重ねられている様子を見ると、ここは物置なのだと見当がついた。幽霊や妖怪が住み着いていそうなこの場所が、ヒロトくんのお気に入りの場所らしい。
 今日はやけに北風がびゅうびゅうと吹き寒いから、彼のお気に入りの場所で昼食を済ませることにした。お母さんが作ってくれたお弁当を広げると、昨日のお弁当の中身とあまり変わらない具たち。一方彼のお弁当は、いつも色鮮やかで何種類ものおかずがぎゅうぎゅうに詰め込んである。いいなあ。食べたいなあ。そう思っていたのはわたしのほうだったのに。ヒロトくんは、唐突に言ったのだ。

「え?ウインナーとたまご焼き以外なら交換してもいいけど…。」
「あ、ああ。いや、そうじゃないんだ。」

 ヒロトくんは苦笑いを浮かべながら、首を横に振るう。交換じゃなければ、一体なんなのだろう。思わず首を傾げる。
 彼は広げたばかりのお弁当を机に置き、わたしの瞳を捉えて優しく微笑んだ。いつものヒロトくんで、優しい笑顔のはずなのに、何故だかぶるっと身体が震えた。おかしいな。どうしたんだろう。そう思っていると、ヒロトくんは優しい笑みを浮かべながら、 「きみだよ。」 と言った。訳がわからなくて、え?と聞き返すと、じりじりと距離を縮めながらヒロトくんは静かに呟いた。


「食べちゃいたいのは、きみだよ。」



星を信じないで
執筆:20101217