# 現実的なロマンチスト 卒業式。オレには、卒業式にちょっとしたロマンスを求めていたりする。(しなかったりもする。)たとえば、後輩の女子から「第二ボタンください!」とか言われてみたり(オレのガッコーはブレザーだから意味ないけど。)、校舎裏に呼び出されてラブレターらしきものをもらったり、告白されたりだの。いろんなロマンスを結構求めていたりする。いや、たぶんオレだけじゃないだろう。きっと、男なら一度くらい考えたことがあるはずだ。とにかく、モテたい!と。そう思ったことがあるはずだ、うん。だから、「卒業式」っていうものはいわゆる中学時代最後の大イベントってなわけで。オレもその他多数の男子も、いろんなことを期待してしまうわけで。まさか告白とかもされちゃうかも!?って胸の中で密かに思っているわけで。・・・でもまさか、このオレも告白っていう卒業式が生む1つのロマンを体験するなんてこと、本当に思っていなかったわけで。とにかく、びっくりしたんだ。 「す、好きだ」 オレの目の前にいる奴がそう言う。オレのことが好きだ、と。ああ、そうなんだ。好きなのか、ありがとう!・・・なんて悠長なこと言っている場合では、なかった。今、オレの目の前にいる奴はオレに対してなんて言ったんだっけ?す、好き?そーかそーか好きか(ん?)。・・・あれ?そもそも、好きってなんだ。奴のせいで好き、の意味がだんだんわからなくなってきた。獄寺隼人は、どうしてこんなことをオレに言っているんだ?(こっちが聞きたいわ!)なにかの罰ゲームみたいなものなのか?否、そうであることを願うばかりだ(例え罰ゲームでもこれはきついぞ)。 「つか、俺のこと知ってんのか」 「・・・ハッ。あ、まあ、知ってる、けど」 「ん。じゃあ、そうゆうことだから」 ポリポリ自分の頬を掻く獄寺に思わず、なにがそうゆうことなんだ!って叫びそうになった。でもそんなことよりオレは、今の状況をきれいに整理させることを優先させるべきだと思い、獄寺のさっきの言葉は気にしないでおこうと決めた。何がオレをこんなに混乱させるかって、そりゃあ目の前にいる獄寺隼人だ。獄寺の心理がオレには全くわからない。男に好きだって、告白して、男の獄寺になんの特があるっていうんだ。あいつはなんかモテるっぽいし、男のロマンをこれでもかってくらい味わっている幸せな野郎なのになんでこんなむさ苦しい男にこんなことをやっているんだ。そもそも、おかしいだろう。なんで告白する対象が女子じゃなく、オレなんだ。まさかとは思うが獄寺は極度の遠視で告白する相手を間違えたのか?いやいや、そんな間違い今時しないだろう。目が悪いならちゃんと眼鏡をかけているはずだし、眼鏡が嫌ならコンタクトをしているはずだ。・・・ということはやはりこれは何かの悪い罰ゲーム、ということなのか。はたまた、他の理由があるのか。一体どっちなんだ。 「あ、あのさ、」 「つうかコレ、罰ゲームでも丸罰ゲームでもねえからな」 「・・・(丸罰ゲームはなんか違うと思う)」 「お前わかってねえから言ってやるが、俺は本気だ」 獄寺の目がマジで、ドキッとなった。このドキッというのは、ときめきのドキッじゃなくて、普通に恐さからくるほうのあれだ。オレは思わず、一歩二歩後ろに下がってしまう。今までは別に、男が男に恋するとか、女が女に恋愛するとか、全然嫌悪感はなくて、むしろ恋愛って自由なんじゃねーの?別に誰が誰に恋しようが関係ないだろとかかっこいいことを思っていたけど、実際その立場に立たされると、違う。思っていたのと、現実とは、全然違う。気持ち悪いとかそういうんじゃなくて、ただ怖い。相手が本気すぎて、気持ちが強すぎて、少しだけ身体が震える。ギュッと拳に力が入るのがわかる。なんて言って言葉を返したらいいのか、わからない。頭が真っ白だ。 「気持ち押し付けるわけじゃねえ。でも、言いたかった。お前に」 「・・・う、うん」 「・・・つか、そんなに警戒しなくていい」 「ご、ごめん、そんなつもり、ないんだけど」 やばい。オレこんなに弱弱しい声していたのかと思うくらい、オレから発せられる声は覇気がない。獄寺が、困っている。できるなら、この場から今すぐにでも立ち去りたいが、そんなこと獄寺がいる目の前でできるわけがない。あんまり関わりとかなかったけど、それでもオレに好意を持ってくれている人を傷つけてしまうのはとても気分が悪い。人間としてどうなんだって思う。でもだからと言って、獄寺になんて言っていいのかわからなくてこんな態度しか取れていないオレはもうすでに獄寺を傷つけているかもしれないが。どうすることもできないオレがとてつもなくもどかしい。 「ごめん。んなに、のこと困らせるつもりじゃなかった」 「え、いやオレは、」 「わりーな。変なこと言っちまった。忘れてくれ」 やばい。すごく切なかった。今の獄寺の顔、すごく切なかった。無理して笑ってる感じが嫌でも伝わってきた。オレ、男に告白されて嫌だったはずなのに、今は獄寺のことを思って泣いちゃいそうだ。あれ、やばいな。本当、泣くかも。目頭がだんだん熱くなってきた。獄寺のこと、なんだか知らないけど、追いかけたくなった。 ( title by Canaletto ) Fin. |