# 棒ほど願って針ほど叶う 「いい加減にしなよ、」 千種の気だるそうな顔がわたしをじっと見つめる。どうやら気に入らないことでもあるようだ。言葉には出さないが、きっとわたしに何かを訴えかけている。・・・まあ、分かりきったことなのだけれど、わたしは関係のないような顔をしていつまでも千種の部屋に居座っている。だって、千種の部屋ってなんだか落ち着けるし、静かだし、勉強ができそうなところなんだもん。たぶん、わたしがこの場にいることが、千種が不機嫌でいる最大の理由なんだと思うけれど、わたしにだって千種に用があってここにいるんだし、そんな風に睨まれてもこちらが困る。絶対に、出て行かない。どんなに罵られたって、どんなに罵声を浴びたって、わたしは怯まない。この忌々しいくらいの量の宿題を全て教えてもらうまでは! 「一生のお願い!宿題教えて!」 「・・・めんどいし、やだ」 「めんどいのはわたしも一緒!だからこそ協力するの!」 「もう宿題は終わったし、に協力する気も更々ない」 「じゃあ、答え写させて!」 「やだ」 こんのわからず屋ー!って思わず、蹴り倒すところだったけれど、ギリギリのところで抑えた(あぶない、あぶない・・・)。だって今、千種をノックアウトさせてしまったらわたしの得にはならないし、その逆で宿題を教えてもらう人がゼロになるという最悪な結果が待っている。ここは慎重に行動せねば・・・。そう思って、辺りをくまなく見渡してみた。千種がやって欲しそうなことをして、お礼に宿題を写させてもらう、というわたしの作戦を今すぐにでも成功させるために、だ。そしてそして、まずは、掃除!思春期の男子なら、部屋の中は足場がないほどゴミやジャンプやエロ本で埋め尽くされているに違いない。・・・でも、千種の場合は元々きれいだから意味がない(というか、わたしの部屋よりきれいなんじゃ・・・)。それじゃあ次の手。料理!思春期の男子なら、いくら好きでもない女からとはいえ手作りの料理を作ってもらうということは嬉しさ100笑顔100になるに違いない。・・・でも、そういえばわたし料理作れないんだ。作れてもラーメンくらいだ(千種の方が料理できるような・・・)。それではそれでは次の手。会話!思春期の男子なら、いくら好きでもない女だからと言って、話したくないわけがない!きっと、わたしと話していればいつの間にか打ち解けあい、何やら変な雰囲気になるに違いない。・・・でも、千種は言葉のキャッチボールができない。それに今の千種は怒っているみたいだし、これも無理だ。ああ、一体どうすれば。 「考え事なら余所でしてくれない」 「うえ?あ、すまんすまん!」 「・・・で、人の部屋見渡して何するつもり」 「い、いやあ!別になにも・・・」 「だったら、自分に部屋へ戻れ」 「だから千種!宿題ー!お願い、一生のお願い!」 「の一生のお願いは何回あるの」 「一回!一回だけだからー!」 ああ、なんで分かってくれないんだこのポンコツ眼鏡バーコードリーダー!!思春期の男子は、頼られたり、お願いされたりするの、好きなんじゃなかったの。わたしがこの前買った「恋する思春期」の全ては全部嘘だったとでもいうのか。否、断じてそんなことあるはずがない。きっと、千種がおかしいんだ。きっと、千種が思春期じゃないだけだ。千種はもっと、大人な生き物なんだ。だから、このマニュアルが通用しない。だから、わたしのお願い聞いてくれないんだ。めんどい、とかじゃなくてね!めんどいとか思われてたら、わたし死ぬほど悲しいよ! 「じゃあ、何やったら見せてくれる?」 「は」 「だから、わたしが千種のために何やったら宿題見せてくれるの?」 「べ、別に俺はそんなやましいこと考えてない・・・」 「そんなやましいこと?何そんなやましいことって?あんなやましいこと?」 「ち、違う!」 「千種!わたしどんと構えてるから!さあ、言って!」 「い、いい。別にもう、いい」 プイっと後ろを向いてしまった千種はなんだか小さくて、思わず笑いそうになった。でも、ここで笑ってしまったらきっと千種はまた怒って、わたしの顔を睨みつけるのだろう。だから、わたしはガマンするのだ。笑いそうな、この気持ちをぐっと抑えて、千種を見据える。もう一度、もう一度千種に頼んでみよう。そうすれば、きっと千種は頷いてくれる。嫌そうな、めんどくさそうな顔をしても、絶対に。 「ねえ千種!宿題教えて!」 「・・・めんどい」 「え、ええええ!!??そこは頷いて、ハッピーエンドにするところだろこのバーコードヤロウ!」 Fin. |