# 星屑と聖夜のララバイ


 今日は、パパの知り合いのおおきなお城でせいだいなパーティがあるみたい。いつもパパとママのふたりだけで行っていたのだけど、今回は特別、わたしもいっしょに行けることになりました。わたしは、うれしくてうれしくて、急いでお部屋にもどって、パーティに着ていくドレスをさがしました。パパのお話によると、わたしとおなじ年くらいの子がそのお城に住んでいるみたいなのです。それもあってか、わたしはとてもワクワクしました。一体どんな子がいるんだろう!わたしのむねには期待でいっぱいでした。
 お城につくと、たくさん人がいて、おどろきました。わたしはあわててかけ出して、お城のなかへと入っていきました。なかは、とてもキラキラしていて、まぶしくて、わたしの心はすぐにその光景に心打たれました。ああ、なんて素敵なところなんでしょう。わたしは、走っていろんなところを見ました。後ろのほうで、パパとママが「あまりはしゃぐんじゃありません」とプンプンおこっているようでしたけれど、わたしはそれどころじゃなかったのです。とてもドキドキして、ワクワクして、どうしようもなく楽しかったのです。パパとママには、後でみっちりおしかりを受けるかもしれません。けれど、いいのです。わたしは、こんなにも胸がいっぱいなのですから。


「きゃっ」
「うわっ」


 前もろくに見ていなかったものですから、ゴツンと人とぶつかってしまいました。わたしはあわてて前を向きなおして、「ごめんなさい!」とあやまりました。すると、わたしと同じくらいのおとこの子がひどくおこったようすで、「どこ向いてんだ!」と声をあらげたのでした。わたしはとうぜんこわくなってしまい、はんしゃ的に頭を手でおおいました。いつもこんな風におこられたときは、わたしの頭にきょうれつな痛みがおそいかかるので、そのせいなのでしょう。わたしは、ふるえた声でもう一度あやまりました。ごめんなさい、と。


「なっ、なんで泣いてんだよ!」
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい・・・!」
「ちょっ、オレが泣かせたみたいになってんだろっ」
「ご、め、ごめんなさ、い・・・」
「あーもう!・・・しゃあねえなあ」


 おとこの子がなさけない声を出しました。そして、いきなりわたしの手をつかんで走ったのでした。わたしは何が起きているのかわからず、あぜんとしたままおとこの子について行きました。だんだん気分もおちついてきて、いまだつながれている手をみて、わたしはドキドキしはじめました。まるで、おうじさまに手をひかれているみたい。後ろすがたのおとこの子をみて、さらに胸がたかなりました。ああ、もしかしてわたしはこのおとこの子に恋におちてしまったのかもしれない。そう、おもいました。


「ほら、上みてみろ」
「え?なに・・・」


 気づけばわたしは、くらい空間にいました。となりにおとこの子がいることがわかっていても、少しこわいなと心がふあんになりました。けれど、そんなのおかまいなしにおとこの子が上をみろと言うのです。わたしは、いったいなにがあるんだろうと思って、顔を上に向けました。「う、わあ・・・!」そうするとそこには、空いちめんの星空が、はしからはしまで、ひろがっていたのでした。わたしはとてもかんどうして、手を星空に向けてのばしました。手をのばせば届きそうなきょりなのに、その手はなかなか届きませんでした。おとこの子が、となりで「届くわけないだろ」とつぶやいたのが聞こえました。わたしにもそれくらいわかってます!と、でもいうように、わたしは頬をふくらませました。おとこの子はゆめがないみたいです。


「で、おまえ名前は」
「わたしはです」
「ふうん」
「あなたは?あなたのお名前はなんていうの?」
「・・・隼人」
「はやと・・・。うん!いい名前だわ!」


 おとこの子の名前がわかりました。はやと、というらしいです。漢字はよくわからないですが、とてもいいお名前。わたしのおうじさまには、ぴったりの名前なのでした。わたしは、もう一度はやと、と呼んでみたくて、「はやと」とおとこの子を呼んでみました。そうすると、はやとはぶっきらぼうに「何回も名前、呼ぶなバカ」と言うのです。もう、なんて失礼なのでしょうこのおうじさまは!わたしはまた、ぷうと頬をふくらませました。わたしのおうじさまは、もっとやさしくて、もっと素敵なかたなのに。少しはやとにムッとしました。けれどその気持ちはすぐにふきとんでしまいました。だって、月あかりにてらされたはやとがなんとも言えないくらい、かっこよかったのですから。ああ、やっぱりぶっきらぼうでも、わたしの、わたしだけのおうじさまなのだ、とあらためておもいました。それにはやとは、こんなキレイでワクワクするようなところへわたしをつれてきてくれたんだもの、きっとやさしいんだろうなとも、こっそりおもいました。だから、うれしくなってもう一度はやとの名前を呼んでみることにしました。はやと、はやと。はやと!


「はやと!」
「だからなんだよっ!」
「こんなキレイな場所、見たことない。つれてきてくれて、どうもありがとう!」
「べっ、べつにお前のためじゃ、ないんだからなっ!」
「それでも、わたしはこんな素敵な場所につれてきてもらってうれしいの!」
「そ、そうかよ」


 はやとが顔をそむけました。わたしはそれが気に入らなくて、もう一度はやとの名前を呼びました。そうしたら、またはやとが「だから何回も呼ぶな」とぶっきらぼうに言うのです。わたしはわたしで、なんだかはやとのことがわかってきたような気がしてうれしくなって、またこりずにはやとの名前を呼びました。そうしたら、はやとは「うるせえ!」と言うのでした。なんだか、はやとのぶっきらぼうのコトバすらうれしくなって、わたしは笑顔でもう一度はやとの名前を呼びました。


「はーやと!」
「お前、はたすぞ・・・!」


 とてもぶっきらぼうで、ぶきようで、やさしいシャイなおうじさまなのでした。



( title by Canaletto ) Fin.