# 早熟のメランコリー 先々週くらいから約束していた、動物園へ行こうという計画は悔しくもこの通り雨のせいでパーになってしまった。わたしとしては、すごく残念で心の底から「雨のバカヤロウ!」と大声で叫んでやりたい気分なんだけど、今、現在進行形で隣に座っている獄寺ほど、憤怒していない。降水確率30%と全国的に放映したNHKをそこまで、恨んでいない。けれど、なんだ。なんなんだ、この獄寺の機嫌の悪さは。色んな獄寺を観察してきたわたしさえ、思わず後退ってしまうほどの黒いオーラが、今にも肉眼で見えそうな勢いだ。・・・ああ、話しかけるの、正直、少し怖い。 「ご、獄寺?とりあえず・・・なんか飲む?」 「・・・いらねえ」 「そ、そっか」 内心、おまえ声ひっくいなーもう!と冷や汗をかいたが、とりあえず八つ当たりみたいなことをされなくてよかった。いつもなら、「てめーがちゃんと天気予報見てなかったんだから悪ィんだよ!」とか「折りたたみ傘くれー用意しやがれ、この大馬鹿ヤロウが!」とか、わたしに姑のような剣幕で襲ってくるんだけど、今日はそれがない。おかしいな、ヘンだなと思いながら、少し濡れている自分の髪の毛を先ほど持ってきたタオルでわしゃわしゃと乱暴に拭く。今日はお母さんとお父さんが弟の試合の応援に行っているため、今は誰も家にいない。だから、必然的にわたしと獄寺の二人きりになるんだけれど、別に緊張とか、そんなやましい雰囲気はない(あったら、怖い)。・・・あ、でも別の意味でわたしは今、獄寺に対して緊張している。 「・・・・・」 わたしがずっと押し黙っていると急に獄寺が、ソファから立ち上がって乱暴に自分が羽織っていたジャケットに手を突っ込んだ。その行動に唖然としていると、獄寺はポケットから何かを取り出して、「、手」と発した。訳がわからず、「え?」と聞き返すと獄寺はブチンと切れたように、「手ェ出せって言ってんだよっ!」とご近所に聞こえてしまうくらいの声で吠えやがった。ひえー!こえーよ!と思いながらも、獄寺に言われたとおり手を差し出すと、獄寺の手からキラリ光るものがわたしの手のひらに落ちてきた。それがなんなのか、分かるまで1秒もかからなかった。 「ゆ、ゆびわ・・・?」 「ん」 「わたし、どっかで落としたの?でも、こんな指輪、わたし持ってたっけ」 「ちげーくて、それはだな、その、」 「なに?なんなのさ」 「だから、それはだな、その・・・・・。だあー!!つうか、普通わかんだろうが!察しろよこの鈍感!」 いつもと変わらず大声を張り上げた割りに、獄寺の顔がほんのり赤いのは何故なんだろうと疑問に思った。いつもと同じように怒鳴られているはずなのに、わたしの心臓がドキドキ高鳴っているのは一体何故なんだろう。ああ、やばい。指輪の意味がわかったら、こっちまで移ったみたいに頬が赤くなってきてしまった。 「も、もしかして、プレゼントとか、贈り物とか、そーいう系統のものですか?」 「・・・・・」 獄寺は結局その質問には答えてくれなかったけど、わたしは返事を聞かなくてもその答えがわかってしまった。獄寺の顔を見たら一目瞭然だったのだ。獄寺の顔を拝めて、そしてもう一度手のひらにあるキラリと光る指輪に視線を向ける。愛されてるのかな、なんて勝手に思いながら、小さな声で「ありがとう」と呟いた。 ( title by 金星 ) Fin. |