# 脳内オーバーヒート


 タッタッタッタ、階段をリズムよく降りて昇降口へと向かう。階段の大きな窓から見える景色は、もうすでに日が傾いていて、部活動に励む素晴らしい生徒達の声が聞こえる。みんなのがんばりには盛大な拍手を送りたいところだったが、生憎今のわたしはそれどころではない。急いで家へと帰らなければならないのだ。(「やばい!もうこんな時間だー!」)なぜ早く帰らねばならないのかというとその理由は簡単で、つまらなくてなんてくだらない理由なのだろうかと思う人もさぞたくさんいるだろうけれど、わたしにとってはもうそれが生活の一部部分となっていて。ドラマの再放送というものは、わたしの生活の日課に入り込んでいるのだ。「ああ、再放送かよ。」と、思った方もさぞいるだろう。「ベタだな〜。」と思った方もさぞいるだろう。だけれど、「再放送かよ。」と再放送をなめてもらっちゃあ困る。再放送だからこそ、ハマる。ついつい見てしまう。というものが、本当に、存在するのだ。次はあーなって、次はこーなって、次はそーなって・・・って、なんかこんな感じに続きが見たくて見たくて仕方がなくなるのだ。それか、あれ?次どうなるんだっけ?あれ?こいつらってくっつくんだっけ?と続きを忘れて、次回が見たくて見たくて歯がゆくなるのだ。これをわたしは一種のテロリズムと説いた。再放送のドラマが見たくてうずうずしちゃうシンドローム。と、説いたのだ。うん、テロリズムじゃなくシンドロームになっているけれど、どっちも似たようなものだろう。ここら辺のことにはあまり触れないでいただきたい。
 色んな想いが飛び交いながら、わたしは昇降口の手前、下駄箱に着いた。急いで自分のローファーを取り出し、スリッパをしまうと、わたしは取り出したローファーに足をはめ込む。すると、隣の下駄箱の陰からにゅっと美少年が飛び出してきて、わたしは思わず目を見開いた。びっくりして、うわっと奇声を上げるとその美少年はこちらを向いて、不機嫌そうに「なんだよ。」と呟いた。別になにかあるわけでもないのだが、反射的に声が出てしまったとは言わず、わたしも素っ気なく「別に」と答えた。いつものしかめっ面が、わたしの一言によりもっとその顔を顰めさせた。キレイな顔が台無しじゃあないか、と心の中で思いながらもわたしはお口にチャックをする。余計なことは言わない方が身のためだと、肝に銘じているからだ。


「ねえ、サスケ。アンタ今日チャリ?」
「お前には関係ないな。」
「いやいや聞いてるんだよ?関係ないとかそういう問題じゃないの。」
「オレが言いたくねえんだよ。」
「あ〜そう。今日はやっぱりチャリなんだ。よし、サスケわたしを乗せろ。」


 「はあ?」ふざけた声が耳から頭へと流れ込んでくる。ふざけた、というよりもまぬけな声だったが、それはまさしくうちはサスケから出た声だった。変な声を出したサスケの様子を伺うため、顔を見てみるがその顔はいかにも「嫌です。」と言わんばかりの表情だった。だけれどわたしはそんなことは気にせず、自転車置き場に置いてあるであろうサスケの自転車を探し始めた。そんなわたしの健気な様子を見てか、サスケは自分の自転車に近づきボンっと乱暴にカバンをかごの中に放り込んだ。「おお!それがさっちゃんのチャリか。」わたしが笑顔で駆け寄ると、サスケはくるっと振り返って、「誰がオメーみたいな馬鹿を乗せるか。」とご自分の毒舌を披露し始めた。そんなサスケの態度になんのためらいも見せず、わたしはサスケの自転車の荷台にあたる部分を手でぎゅっと掴むと、やっぱり目の前の美少年はわたしの思った通りの反応を見せてくれた。


「放せ。汚れる。」
「いや、洗浄されるよ。だから、乗せて。」
「自分の足で歩けこのウスラトンカチ」
「サスケ、そんなことはどうでもいいの。今、4時過ぎてるよ?早く出発しよう。」
「つうか、何勝手に乗ってんだテメーは」


 サスケの断りもなしにどかどかと荷台に座り込むわたしは、とっても迷惑な少女Aだろう。いや、通りすがりのOLなのかもしれない。けれど今はそんなこと気にしていられない。だって、わたしの予測から行くと今日の再放送を見逃せば話の筋がわからなくなって、そのあとは「もういいよ。もうさ、全然話わかんないし?いつの間にか二人くっついてるし?もう見るのやーめた!」ってなるのが落ちだと直感したからだ。だから、なんとしてもここはサスケにマッハで自転車をこいでもらって、マッハで再放送を見るしかない。それしか、わたしに残された道など残っていないのだ。


「サスケ!ほんとお願い!一生のお願い!ちゃんの一生のお願いだよ!(ウインク)」
「・・・うぜぇ」
「なんでも言うこと聞くからさ!今日だけマッハでわたしを送っておくれよ!」
「だからこうしている間にでも走って家に帰りゃいいじゃねーか」
「さっちゃんが駄々こねるからこうなってるんでしょ!」
「お前、ぜってー乗せてやらねえぞ」
「あ、ご、ごめんごめん!ごめんなさいサスケさまー!」


 「・・・仕方ねえな」ぶっきら棒なサスケの声が聞こえたと思ったら、急に自転車が急発進し始めてわたしは思わずぎゃあああとまたもや今日2回目の奇声をあげてしまった。あまりのスピードに体が荷台から零れ落ちそうになったが、なんとかふんばってその場をやり過ごそうとした。が、そんなに現実は甘くないようで今度こそ落ちるーー!と身の危険をひしひしと感じたので申し訳ないけれどサスケの肩を借りることにした。そうしたら、前からサスケの声が聞こえたような気がして、わたしは大きな声で「もう一回言って!」って言うと、サスケは急に急ブレーキをかけてこちらを振り向いた。(うぎゃあああ!)(ブホッ!)・・・というか、今さっきサスケが急ブレーキなんかかけるからサスケの背中に顔面がどかーんと当たってしまって、少し顔がひりひりする。サスケめ覚えてやがれ!


「だ、だから・・・その、背中でいい」
「は?背中?てゆうか、わたしさっきさっちゃんの背中で顔面強打したよ?」
「だから、肩じゃ危ねぇっつってんだよ!」
「そしてわたしにどうしろと!?」
「お前馬鹿だろ!背中だって言ってんだろ!」
「一言余計!背中、何!?単語じゃ会話は成り立ちません!」
「だ、だから、背中に手ぇ回せって言ってんだよ!このウスラトンカチが!」


 妙に焦ったサスケの顔が新鮮で、からかってやろうと思ったけれど自分もなんだか顔が火照ってそれどころじゃなくなってしまい、素直にうんと頷いた。思ったより大きかったサスケの背中に、ドキドキしながらも平然を装ったわたしはまさしくポーカーフェースだったのだ。



( title by hazy ) Fin.