# 幸せの攻略方法 目の前でブスッと頬を膨らますレンが、わたしに何かを訴えるような眼差しでこちらをじーっと見る。大体レンの言いたいことはわかるのだが、今は見てみぬフリをする。レンやリンの相手をしている余裕なんて、今のわたしには到底ありはしないのだから。あからさまに不機嫌なレンを無視して、わたしは明日中に提出しなければいけない書類を整理する。わたしみたいな内気で人見知りの激しい愛想のない人間は、このように他人の仕事をまかせられることが多い。はあ、世の中ってほんとう理不尽だわ。ふと、わたしの口からため息がもれた。そしてそれを見たレンは、はっと目を大きくさせる。 「・・・もしかして、疲れてんの?」 「じゃなくて、マスターでしょ。そして、見ての通りわたしはくったくたなの」 「ふうん。でもさ、マスター昨日オレと約束したでしょ」 「・・・わたしなんか言ったっけ」 ぼそっと独り言のように呟いたつもりがレンにはやはり聞こえていたらしく、やっと表情が柔らかくなってきていたのにまたはじめの膨れ顔に戻ってしまった。自分でもやばい、地雷を踏んでしまった、と思った。レンの機嫌を直すため、この前買ったさわり心地の良いバナナクッションをレンのほうへ投げてみると、躊躇なく思いっきり蹴られた。レンは、「こんなもんでオレをつれると思ってんのか!オレは今日本で一番自由な中二だぞコラ!轢いてやんぞ!(リンのロードローラーでな!)」とでも言うように、ひどい睨みをきかせてわたしを食い入るように見る(最近、レンが思春期特有の反抗期が訪れたのでは、と思えて仕方ないのはわたしだけだろうか。)。この重たい雰囲気を和ませようとわたしは少し茶化してみる。が。「あは、あはは!マスターったらうっかり!キラっ☆」「・・・・・・・・・・」。そうするとわたしは案の定レンの冷たい視線を浴びることとなってしまった。・・・ごめんね、レン。 「べっつにー。今すぐチョコバナナマフィン作ってくれたら許すけどぉー」 「は?今から!?もうこんな時間だよレンくん!リンも寝てるんだし・・・」 「じゃあもういい」 「あーわかったわかった!チョコバナナマフィンは無理だけど、バナナジュースなら・・・」 「ヤダ」 そっぽ向けるレンにわたしはうなだれながらも、愛しい自分のベッドに気持ちよさそうに眠っているリンに助けを求める。本人、リンは熟睡しているので声を上げないかぎり起きないのだが、意味もなくそうするわたしは余程リンに頼りきっているらしい。そしてそれが気に入らないのか、またレンはわたしがこの間買ったバナナクッションをこれでもかってくらい踏みつけた。中学二年生といえども、やはり母親代わりであるわたしに構ってほしいのかレンはこうやってわたしにワガママを押し付ける。それが別に嫌だとかメンドクサイなどとは思わないが、やはり疲れる。まあ、可愛い可愛いレンのワガママだったらどれだけ疲れていようと聞き入れるつもりだけれど。今日はまた一段と不機嫌だ、わたしのレンは。 「なんて、リンのロードローラーで轢かれればいいんだよ!」 こんな憎まれ口たたかれてもそれでも愛しいと思うのは、きっとレンがわたしの心の支えになっているからだろうと、膨れ面のレンを見ながらそう感じた。 ( title by Canaletto ) Fin. |