# ジュピターの手抜かり 「ふわあ、つかれたー・・・ってうわあ!」 ボクの隊の隊長、つまり沖田総悟さんのことですが、あの人はとても無神経で自分勝手な人だと思う。平気でボクの嫌がることをするし、傷つくような言葉を投げかけるし。正直言って、沖田さんは苦手です。土方さんのような鬼の副長さんも怖くて苦手なんですが、沖田さんはもっと苦手なんです。ボクをいじめて楽しんでいる(ように見える)ときとか、とくに。沖田さんは一体ボクになにを求めているんだろうと思うのです。まあ理由なんてなくとも、ボクみたいなへにょへにょの弱っちいヘタレ新人を甚振るのはさぞかし楽しいことかもしれませんが。こっちの身にもなってほしいものです。毎日、雑用・雑用・雑用・稽古の繰り返しでボクの体力はギリギリなんですから。もしそれを知っていてこんなことするような隊長なら、ボクは永久に沖田さんを好くことができません。ぜったいにです。断言できる自信があります。 「おや、遅番ですかィ。そりゃあ、ご苦労なこって」 「お、おき、沖田、さん・・・!」 雑用の勤務が終わり、ボクが使っている部屋へ戻るとそこには同部屋の隊士さんではなくて、ボクの隊の隊長である沖田総悟さんがいた。ボクは慌てて後ずさり、沖田さんの様子を伺った。どうやら、沖田さんはボクの布団の上でお菓子をボリボリ貪っていたらしい。おかげでボクの布団はお菓子のカスだらけだ。ボクはその光景を見て、大きなため息を吐いてから、おそるおそる沖田さんへ近づいた。もちろん、沖田さんをこの部屋から追い出すためだ。それもいかに上手く、相手が不快感を覚えずに追い出すかという、ボクのお得意の大ワザで。 「おい、。俺ァ、ちと喉が渇いちまった。茶ァ、ないですかィ」 「・・・え!お、お茶ですか、えっと、今はないです」 「じゃあ、熱い茶ァ一杯よろしくお願いしやす」 追い出すどころかまた雑用を頼まれてしまった。ボクはガクリと肩を落とし、しぶしぶ沖田さんの言われたとおりにすることに。だって、ここで文句のひとつでも言ってみろ。きっとボクの身が危険にさらされる。「新人だろ先輩の言うこときーけーよーコルァ」的な言葉を投げかけられる。・・・いや、沖田さんはもっともっとサディストだからこの数倍は怖いことを言うんだろうな。だから、怖いから逆らわない。ぜったいにです。 「沖田さん、あのお茶です・・・」 「どーも」 沖田さんはお茶を冷ましてから、ズーズーと喉の奥へお茶を放り込んだ。「さすが、いい仕事しまさァ」なんて独り言をつぶやきながら、いつのまにやら隣にあったお菓子に手をつけながら視線をテレビに移した。とりあえずボクが感じたことは、なんで人の部屋(みんなの部屋)なのに自分の部屋みたいにくつろいで当たり前のように使っているんだろうと、しぶしぶ思った。決して沖田さんは悪い人ではないけれど、良い人でもない。言うなれば、紅茶とミルクティーの間ってところだ。どっちでもない感じの。 「あ、あのところで他の隊士さんたちは・・・?」 「ああ、それなら俺が全力で追い出しやした」 「な!なんでそんなことするんですか沖田さん・・・!」 「アイツらは危険なんでねィ。取り扱い注意でさァ」 「(それは沖田さん、貴方自身だとボクは思います)」 ニッとボクを見て笑う沖田さんは、すごくかっこいい。顔は本当に良い、というか美少年だ。初めてあったときから、かっこいいなあって思っていた。それは本当に認める。沖田さんはキレイだ。そしてボクは、この人とならきっと上手くいくと過信していた(だって隣にいた副長さんより、優しそうだったから)。そう、ボクは人を見かけで判断していたのだ。人は見かけによならない、なんて言葉はうそっぱちだとそう思っていたのに。現実はきびしいものだ。今じゃ、沖田さんが偉大で怖くて仕方がない。初めてホンモノのサディストとやらを見た気がした。というか、沖田さんのドエスっぷりは副長さんも近藤さんも公認ずみらしいかったのだ。それならそうと先に言ってくれればいいのに。 「は何分女みたいなんでねェ。襲われたりしたら、大変だ」 「いや、もう完全に別のなにかに襲われている気がしますけどね・・・」 「マジですかィ。でも、心配はいらねェ。昨日、近藤さんにとオレの部屋を一緒にするようにと頼んできましたからねェ」 「そうなんですか、ありがとうございます。・・・って、へ!?」 沖田さんの言葉が理解できずに苦しんだ。否、理解したくはなかったのだボクは。だってあの怖い沖田さんと一緒の部屋になるなんて。想像しただけでも、おそろしい。毎晩気を遣って、身体を休めるどころではない。いや、眠れるかどうかさえもわからない!そんな生活真っ平御免こうむります!ボクはこの会談を無しの方向に持っていきたいんですが。・・・ああ、それは無理そうだ。沖田さんのこの自信たっぷりの顔を見てしまったら。きっと近藤さんがノウと言っても、沖田さんはそれをやり切ってしまうだろう。ボクという犠牲をはらって。沖田さんはそういう方だ。ボクの意見なんて初めからないに等しい。本当に、現実とはきびしいものだ。 「ってことで、これからよろしくお願いしやすぜ、」 ああ、ボクはこの人に一生扱き使われながら、老いていくんだろうなあ。そう思ったら、なんだか前が霞んで見えなくなった。 Fin. |