# 危急存亡の秋


 授業中。変な鼻歌がどこからともなく聞こえるな、なんて思っていたら、やはり誰かがのん気に鼻歌を歌っているのだ。こっちは先ほど先生に渡されたプリントを必死にこれでもか!ってくらい頭を振り絞って挑んでいるというのに。なんて、煩わしいのだろう。なんて、煩わしい奴なのだろうか後ろの席に座っているやつは。色々とイライラしながらも、わたしは聞かない振りをしておこうと気を取り直して、もう一度プリントに集中し出す。わたしが集中したのと同時くらいに後ろの煩わしかった鼻歌を聞こえなくなった。ああ、やっとこれでまともな回答を出すことができる、そう安心してシャーペンを滑らせる。わからないところがあれば、そこは空欄にしておき、休み時間友達に教えてもらおう、と思って次の問題をし出したところ、またもや煩わしい鼻歌が聞こえ始めた。一体、後ろの席は何をやってるんだ!プリントしろ!プリント!あまりのイライラに思わず後ろを振り返ると、そこには眼鏡の似合うあほ面のヤロウが黙々とプリントに向かっている姿が見られた。・・・あれ、コイツもちゃんと授業受ける気があったんだ、と一瞬でも眼鏡を見直したわたしが、とても浅はかだった。よく見てみるとそれは、先生が配ったプリントではなく、真っ白なA4にコイツが書いたであろう詩みたいなものがズラリと並べられていた。思わず、というか、反射的に引いた。


「〜〜♪・・・いいんちゃうこれ・・・!」
「・・・」
「ん?あ、。なんや今俺は忙しいんや」
「・・・う、わー・・・」
「新曲考え中なんですぅ。の相手したいんは山々やけど堪忍な」


 わたしにウインクらしきものを飛ばした、コイツを殴り倒してもいいだろうか。否、100人いたら100人オッケーサインを出すだろう。今のコイツは、本当にこれでもかってくらいウザかった。きっと、わたしだけじゃない。みんな、そうクラスみんなの気持ちが今ひとつになったに違いない。どうか、コイツを殴ってくれと。どうか、コイツの暴走を止めてくれと。みんながわたしに祈願しているに、違いない。そう、感じた。感じずにはいられなかった。みんなの目線がわたしに集中していることがわかる。こ、これは・・・。合図だ!アイコンタクトだ!みんな、やっぱり煩わしいと思っていたのだ!コイツ、忍足侑士を!


「・・・あ、あのさ」
「やから言うとるやろ。の相手は今できませーんて」
「だからさ、アンタうるさいから。新曲とか知らないし、みんな迷惑してるから」
「何言うてんねん。みんな俺の神曲を待ってんねんで?」
「激しく気のせいだと思う!激しくね!」
「おお!その激しくね♪いいかもしれんわ・・・!それサビに使わせてもらうわ!」
「き、気持ち悪い!なんかほんと、え?ちょ、宍戸!」


 今の忍足、本当に気持ち悪かった。キモイ、じゃなくて、気持ち悪かったのだ。思わず隣のクラスの宍戸の助けを呼ぶくらいだったのだから、相当気持ち悪かった。あれはどう見ても誰から見ても気持ち悪かっただろう。なかなかこの鳥肌が止みやまない。ああ、どうしよう。背中から冷や汗が流れ落ちてくる。わたし、みんなの期待には応えられないかもしれない。みんな、ごめんなさい。役に立てないクラスメートで。本当にごめんなさい、こんなわたしを許してください。


「さっきののおかげでええ曲作れそうやわ」
「・・・そ、そうですか」
「なんか、やらしめの曲作りたかったんや。激しくね♪」
「・・・き、気持ち悪いっ!どうしよ、え?ちょ、宍戸向日!」
さあ、ホンマは俺のこと好きやろ?」
「激しく気のせいだと思う!激しくね!ほんと激しいくらいね!」
「おっ!きたきたきたで!その激しいくらいね♪のおかげで、曲完成や・・・!!」
「ちょ、跡部コルアアアアアアアアアアアアアアア!!!こんな奴早く退学させろー!」


 違うクラスの宍戸、向日、跡部の助けを呼ぶほどわたしはこの時、悪寒を感じていた。本当に誰かに助けてほしくて、どうしようもなく、忍足が気持ち悪かった。席替えがくるあと2週間後まで、わたしはこの鳥肌から解放される日は来ないのだろう、というあまりにも残酷な現実を突きつけられたい気がした。ああ、わたしってばなんて可哀相な女の子・・・。


!今日家来る?俺の作業を見せたいんや!」
「い、いいから!!」
「いや、その時の俺は激しくかっこいいで!激しくね♪」
「ちょ、え?み、みんな!た、助けてよ誰でもいいからさあ!!」
、今は俺らだけの時間や。みんなには聞こえへん」
「ちょ、おええええ!!ほんとみんな裏切るの!?わたしを見捨てるのみんな!」
「俺だけはずっとお前を見とる。お前さんを見捨てるわけ、ないやろ」
「ちょ、何この雰囲気!シリアスムード!え?な、な、宍戸ー!た、助けてぇ!」
「今の俺最高にかっこええわ・・・!」



Fin.