# 重低音のラブバラード


「マスターひとりで眠れるの?」
「あ、当たり前じゃない!ぜんぜん怖くなんかないし」
「ふーん」


 マスターはオレより年上のくせして、ホラー映画や怖いものが大嫌いだ。お化け屋敷とか、真っ暗な部屋とか、そういうのも苦手(オレの推測だけど)。でも、そのくせしてマスターは、なにかとホラー映画や心霊番組なんかに興味を示して、怖いことがわかっていながら最後まで完璧に見る。オレが途中で、「チャンネル変える?」って親切に言ってあげても、「最後まで見る!」と見栄を張る。意地っ張りなんだか、頑固なんだか、オレにはよくわからないけどマスターのこういうところ、オレは素直にかわいいと思う。マスターに対してこんな失礼なことを思っているだなんて、リンにバレたりしたらオレは確実にロードローラーの餌食となる。なぜならリンは、マスターのことが大好きだからだ。オレもリンに負けないくらいマスターのことが大好きだけど、リンのマスターへの想いは怖いくらい誠実だ。マスターを敬い、尊敬している。でも、オレはリンと違ってマスターのことそうは思っていない。リンとオレの「大好き」じゃ、全く意味が異なってくる。その意味をマスターは気づいているんだろうか。・・・いや、鈍くて空気が読めないマスターのことだからそんなこと全然気づいているわけがない。ぜったいに。


「マスター、オレが一緒に寝てあげようか」
「な、なによレン、急に」
「だってマスター怖がってるから。オレが添い寝してあげようと思って」
「14歳がそんなこと言っちゃいけません!けしからん!」
「じゃあいいの?マスター。オレ、部屋いくよ?」


 さっきホラー映画を見たばっかりだから、きっとマスターは誰かにそばにいてほしいとそう思っているに違いない。その言葉を素直に口でうまく表現できないだけで、内心はオレにいてほしいと思っているはずなんだ。マスターはオレより年上のくせして、子供みたいに意地を張って、くだらないことで強がったりする。こういうときは素直に甘えてみればいいのに。だから、なかなか恋人ができなくて、家でうなだれることになるんだよ。まあ、マスターにもしも恋人みたいな存在ができたらオレは即家出してやるけどね。


「あ、ちょ、待ってレン!」
「なにマスター」
「その、さ、・・・ババ抜きしない?」
「もうオレ眠い」
「じゃあ、今から徹夜してゲームしよっか」
「だからマスター、オレは眠いって言ってるじゃん」
「じゃ、じゃあ、じゃあ・・・」


 必死に言葉を紡ごうとしているマスターを見て、オレは思わず笑ってしまった。思ったよりも、ベッドの上でうーん、うーんと唸っているマスターがかわいかったから。そして、オレより年下に見えて仕方がなかったから。これで「わたしのほうが先輩なのよ!」って言われても、説得力のカケラもない。マスターはやっぱりかわいい。マスターのことがオレは好きだ。大好きだ。誰よりも、ずっとずっと、ずっと。


「素直に言えばいいのに、
「・・・!マスターを呼び捨てにするとは!け、けしからん!」
「そういうは、顔が赤いけどどうかした?」


 オレが親切にそう言ってやるとマスターは「そんなことない!」と叫んで、ベッドに置いてあったクッションを思い切りオレに投げつけた。オレはそのクッションにワザと当たってマスターを見ながら「痛いなあ・・・」とつぶやくと、マスターとの距離を近づけた。一歩、一歩、確実にマスターへ近づいていくとマスターの顔は見る見るうちにりんごのように赤くなっていった。こういうときは素直に感情がでるんだ、と頭の隅のほうで考えながらマスターを見据えた。そして、マスターの目を見てこう言ってやった。


「かわいい」


 マスターは黙ったまま、布団の中へそそくさと潜り込んだ。オレが「」って呼んでも中々顔を出してはくれない。一体マスターは、いつになったらオレのこの最大級の愛に応えてくれるのだろうか。・・・この分じゃあ、もっともっと先の、遠い未来になるかもしれない(でもオレは、それまでマスターを待ってあげないよ)。



( title by Canaletto ) #Thanks you for.....葵さま