# 一途なアクリルの論文


 たいして面白いことも、不思議なことも起こらないこの世界に飽き飽きしていたところで、ふと頬杖を付きながら目線を斜め右にずらしてみると、がわたしの顔を見ながらウフフとでも言わんばかりに微笑んでいた。(ニヤニヤしているって言ったほうがいいのかしら)それを見て、またわたしがムッと顔を顰めさせて、に言うのよ。「なによ、人の顔見て笑わないでくれる?」って。するとね、この子はこういうのよ。「ハルヒ、やっぱりあなたは茨の道を選んだんだね。わたし、もう止めないよ。わたし応援する。心の底から!」なんて、わけもわからないことをね。それを聞いて、またわたしは顔をムッとさせるの。だって、の言っている意味が全くわからないんだもの。


「一体なんの話をしてるのよ、
「うんー?夢のなかのはなしー」
「あのねえ、夢と現実をごっちゃにしないで!わけわかんないじゃない!」


 ついつい声を荒げてしまったのだけれど、は反省の色も見せないで、ふふっと微笑みながら「ごめんなさーい」って子供みたいに言うの。今にはじまったことじゃないのだけれど、どうにかならないかしらこの性格・・・といつも思ってしまうのよ。それは、わたしだけじゃないと思うんだけどね。
 は変わった子なのよ。とても、同じ花の女子高校生には見えない。どちらかというと、まだ鼻水も自分でかめないような、幼稚園児。変わった子、変わった子なのよは。いつのまにか、わたしのそばをついて回るようになって、いつのまにかSOS団にまで現れるようになって、そして今じゃSOS団の列記とした正団員。たまに依頼を運んでくることもあるけれど、それはごくごく簡単なものばかりで(ゼンゼン面白くないのばっかり!)。だから、はすごく使えない!ってわけじゃないけれどすごく使えるわけでもない、まあ所謂女バージョンのキョンよ。まあ、キョンみたいにわたしの言うことに対して、グズグズ言わないところは気に入っているけれどね。


「ねえ、ハルヒ。あのね、ロックの道は険しいと思うんだ」
「・・・・・また、夢のはなし?」
「でもハルヒ、歌上手だし、かわいいし、はっきりしているし、きっといつか大スターになると思うよ」
「あら、そう?例え夢のはなしだとしても、そう言ってもらえるのは悪くないわね」


 うん、うん、と頷き、笑う。こういうところは、素直で従順で、本当に可愛らしいと思うのよ。そうね、例えるなら犬かしら?ああ、でも犬みたいに賢くないし、おっとりしているから、ナマケモノ?それは言いすぎかもしれないけれど。でも、なんにせよ憎めない子なのよ。まあ、たまにイライラしている時に、にそうわけのわからないことを言われると、ムカムカするんだけどね。でも、それもの無垢な笑顔を見ているとなにもかもどうでもよくなって、最終的にはのペースに流されてしまうんだけれど。
 は、自分で淹れたココアをふう、ふうしながらちょびちょび飲む。そんな光景を見て、ホッとするわたしはやっぱり、平凡が一番だと、平和が一番だと心のどこかで思っているのかもしれない。


「ねえ、ハルヒ。でもね、」
「ん?なによ」
「わたし、ハルヒがいなくなったらさみしくて、しんじゃうよきっと」
「・・・・・それは、なに?わたしにアンタの傍から一生離れるなって言ってるのかしら?」
「そう。だってねわたし、ハルヒのことだいすきだもん」


 はそう言ってさみしそうに微笑んでから、またココアを一口ゴクリと飲む。わたしは、照れ隠しに「わたしにも、おんなじやつ淹れなさいよ!気が利かないわね!」なんて偉そうに口を叩きながら、椅子を一回転させて、に背を向けた。全く、なんでわたしがこんなに恥ずかしい思いをしなくちゃ、いけないの!?ああ、もうだからいやなのよこの子は!なんて、イライラしてついつい貧乏揺すりをしてしまう。でも、本当はすごく嬉しくて、が愛しくて、の素直さがとてもとても羨ましく思えたのよ。
 そうしてがわたしだけを瞳に宿して「ハルヒ、コーヒー淹れたよ」なんて、ニッコリ笑うの。・・・・・わたし、アンタとおんなじのって言ったわよね?という、突っ込みなんて面倒くさくて、お礼も言わずにそれを受け取った。本当、わたしって素直じゃないんだから。



( title by 金星 ) #Thanks you for..... 寒子さま