# オルレアンを愛した娘 マスターのベッドの上で寝転びながらドラゴンボールを読んでいると、玄関の扉が前触れもなくカチャと開いたのでオレは思わずバッと身体を起き上がらせる。「ただいまー」マスターが帰ってきたみたいだ。オレは慌ててベッドから飛び降りて、手に持っていた漫画を投げ捨てた。そして、急いでリビングの扉を開けるとそこにはもうマスターの姿があり、マスターの足元には白いビニール袋が置いてあった。オレの存在に気づくなりマスターは、未だ羽織っていたコートを脱ぎながらこちらを見て、「レン、ただいま」にっこりと笑った。オレはなんだか気恥ずかしくなって「おかえり」の一言も言えないでいると、マスターが白いビニール袋の中からネギを取り出して、「今日は鍋パーティだよ!」と楽しそうにネギを振り回した(まるでどこかの緑みたいだ・・・)。 「今日はねー、肉も高いの買ったし、野菜もいっぱい買ったしねー。あ、あとね・・・」 「マ、マスター?あのさ、張り切っているとこ悪いんだけど・・・。今日リンのやつなんか野暮用があるとかで朝からいないんだ」 「え、野暮用?せっかくの鍋パなのに?」 「ああ、残念だけど今日中には帰ってこれないみたいだよ」 「えー!そんなー・・・」 せっかくの鍋だったのに・・・とうな垂れているマスターをよそに、オレは今日出しておいたヒーターの電源をつける。最近極端に寒い日が続くもんだから、マスターが鼻をすすって咳き込んでいる姿を何度も見た。まあ、オレは別にどうってことないけど、マスターに風邪を引かれちゃオレも困るってことで今日ヒーターのありかを見つけて、マスターが帰ってこないうちにリビングへ出しておいたのだ。これで少しはマスターも、喜んでくれる・・・はず(別にマスターに褒められたいとか、そんなこと思ってないけど)。 「ん?・・・あ!!レン、ヒーター出してくれたの!?ありがとう、すっごく助かった!」 「べっ、別に!オレも極度の冷え性だからさ、ヒーターないと困るし、それ、それに、・・・」 「それでも、助かった!最近、重いもの持つとすぐ腰に来ちゃうからさ・・・」 もう歳かな・・・とまたもやうな垂れているマスターに、オレははっと短いため息をついた(まだまだ若いくせに)。そして、マスターの隣にいき、今日の晩御飯を確認するとズラリ並べられていたのは、大根、はんぺん、こんにゃく、たまごなどの全く接点のないものばかりがそこにはあった。一体何を作るんだろうと不思議そうに眺めていると、マスターが察してか「今日はリンがいないから鍋は明日。でも今日も寒いからさ、おでんでも食べようかなーって」と苦笑いしながら、オレを見た。・・・・・オデン。オレはオデンを食べたことがわからないからどんなものか想像つかないけど、マスターが美味しいと言ったものは必ず美味しいんだ。だから、なんか、出来上がるのが楽しみだ。オレがワクワクしながら見ていると、マスターの手が白くて太い大根を捉えた。そして、ゆっくりと切り始める。・・・いつも思うことなんだけど、マスターの包丁さばきは本当危なっかしい(間違えて指切れないでくれよ)。 「あ、そうそうレン。明日ね、ドラゴンボールのね・・・っいて!」 「ま、マスター!?大丈夫!?(思った矢先、これかよ!)」 「ああ、うん。余所見してたら指切っちゃった!こんなの舐めときゃなおるなおーる」 「なに言ってんだよ!血ィけっこう出てるし!オレ、バンソーコー持ってくる!」 マスターの切れた指からは真っ赤な血がどくどくと流れていた。深めに切ってしまったのか、マスターの顔が少し歪んでいた。それを見たオレはいてもたってもいられなくなって、この前リンがワケもなく使っていたバンソーコーがまだリンの部屋の片隅に残っているかもしれないということを思い出し、急いで取りに行った。でも、リンが全部ひとりで使ってしまったのか、そこにはもうバンソーコーの箱と残りかすしか残っていなかった(ちゃんとゴミくらいゴミ箱に入れよ白リボン!!)。バンソーコーはねえ、今ブームなのよ流行の最先端なの!と瞳を輝かせながら言ったリンを、今は少しだけうらんだ(でも、逆に呪い殺されそうで怖い・・・)。 「ごめんマスター、リンが全部使っちゃっててなかった」 「え?ああ、いーのいーの。ほら、血ももう止まったし。まったく、レンは心配性なんだから」 「そ、そんなんじゃねえよっ!別に、心配とかそういうの全然ないんだからな!・・・ただ」 ただ、マスターのことがすごく大切で、大好きで、だから痛い思いとか悲しい思いとか、そういうの、オレ絶対させたくないんだ。「ただ・・・なに?」・・・なんて、こんな小恥ずかしいこと死んでも言えない、言えるわけがねえ。「え?あ、なんでもねーよマスター」だから、今はお得意の笑顔でごまかしておこう。 ( title by Canaletto ) #Thanks you for..... 藤宮さま |