# 愛してると聴きたくなった


「おやおや、こんな遅くまで居残りですか。


うしろから突然知らない誰かに話しかけられたと思いきや、その正体はわたしもよく知る同じクラスメートの噂の転校生くんだった。六道骸、たしかこのような変な名前の人だった気がする。わたしは、落ち着いてゆっくりと流れるようにうしろを振り返る。と、やはりそこには、六道骸が怪異な笑みを浮かべてドアにもたれかかりこちらを見ていた。わたしはあからさまに顔を顰め、六道骸を睨む。そうすると、六道骸はクフッと笑い、もう一度わたしの名前を呼んだ。



「・・・なによ六道。用があるなら早くして。それとアンタに名前で呼ばれる筋合なんてないわ」
「クフフ、素直じゃありませんね、


 六道は自分の手を口元にやって、にっこりと笑顔を作り、こちらを見た。やけに六道の顔が赤く見えるのは、きっと夕日が六道の顔を照らしているからなのだろう。そのせいで、いつもに増して六道の笑顔が気味悪くわたしの目に映る。まあ、普段からもかなり気味が悪いのだが。でも、この夕日が加わった六道の笑顔は半端じゃない。今すぐ、使い捨てカメラで写真を撮って、オカルト研究部にそれを届けたい勢いだ。それくらいさきほどの六道は、気味が悪かったし、寒気がした。少し青ざめた顔で見ていると、六道は「そんなに見つめないでください。僕も照れてしまいますよ、クフフ」と不可解な言動をわたしに浴びせた。わたしは思わず立ち上がってしまい、持っていたフルートを落としそうになった。


「・・・それで、わたしになんの用なの六道」
「いえ、別に。用などありませんが」
「なら、どうして」
「いや、ふとの顔が思い浮かんだので。どうです?嬉しいですか」
「・・・意味わかんないから」


 六道の言動は、わたしには理解できないものであった。普段は突き放すような物言いでみんなに接しているのに、こういうときだけ優しく語りかけてくる。わたしを見つけて、最大の笑顔をわたしに見せ付けるのだ。いつもなら、仲間の城島犬や柿本千種を引き連れて、どこかわたしの知らないところで暴れまわっているのに。とっくにこの学校から立ち去って、わたしの知らないところへ行ってしまうくせに。わたしが独りになりたいときだけ、こうして姿を現す。なんて、迷惑なやつなんだろうとそう思う。けれど、少し胸の辺りがあたたかくなるのは何故だろう。六道のことなんか、関係ないのに。


はこんな時間まで練習ですか。えらいですね、僕が頭を撫でてあげますよ」
「は?ちょ、なに!いいから、アンタ何様?」
「六道骸様、といったところでしょうか」
「すごくむかつくんだけど。そのワザとらしい笑顔、なんとかならないの」
「ひどいです。僕はのためにこうして笑っているのに!」
「馬鹿なこと言ってんな、ぶぁーか!」


 いつのまにかわたしのそばにいる六道が、わたしの頭をごしごしと撫でる。やめろ!と叫んでも、六道は余裕の笑顔をかまして、わたしを見下ろす。当然、六道からは敵意は感じられないのだが。でも、何故だろう。コイツに見下ろされると無性に腹がむかむかしてくる。まあ、六道のほうが背が高いのでどうにもならないことと言えば、どうにもならないのだが。でも、それにしてもむかつくのだ。この身長さも腹立たしいが、何より六道の不敵な笑みが気に入らない。わたしのことをすべて見透かしているような、そんな笑顔が。


「どうです?僕に撫で撫でしてもらえて、嬉しいですか」
「・・・う、嬉しくないし、それに子供っぽくて嫌だし、六道がむかつくし、とにかく嫌!」
「クフッ、やはりは素直じゃありませんね」
「アンタに言われたかないわよ!」
「おや?僕は十分素直に生きていますけどね」


 六道は笑う。この数分の間にコイツは何度笑えばすむのだろうかと、疑問に思うくらい綺麗に笑うのだ。この笑顔がわたしに向けられているなんていう自惚れはしない。そうじゃなかったときのことを考えると、怖くてできないからだ。六道がもう一度綺麗に頬を緩める。「、それじゃあ僕はもう少し素直になってもいいんですね?」「な、なにが」「いいんですよね。が、そう言ったんですから」「だ、だから!なにが・・・」・・・六道が、静かにわたしの身を引き寄せて、わたしの身体を抱きしめる。ああ、あったかい。六道の体温が心地よかった。とても。


「好きですよ、。この世で一番貴方が」



( title by 金星 ) #Thanks you for.....玖錠あすかさま