年の終わりに行われる毎年の恒例行事、忘年会。今日はそんな日だった。
 近藤局長は「無礼講!無礼講!今日はみんなパーッと飲んでいいぞ!」と頭にハチマキを巻いてのたまう。この人は案外酔いが回るのが早い。目を離した隙に服をすべて剥ぎ取って、全裸になっていることもしばしばある。その度土方さんがいつも手を焼いているのをよく見る。土方さんって意外と面倒見がいいのだ。そのくせ沖田さんは──────。いろいろなことが走馬灯のように思い出されて、はあとため息を吐いたとき「酒はまだかー!」と襖の向こうから大きな声が飛び交った。「は、はーい!」わたしは慌てて返事をすると、酒蔵から取り出しておいた日本酒を2本担いで小走りに急いだ。襖を開けると大概の人たちが半裸で倒れていて、起きてぎゃあぎゃあ騒いでいるのはほんの一部の人間だった。

「お酒をお持ち────── ぎゃあ!!」

 膝をついてお酒を差し出そうとしたときに突然後ろから体重を掛けられて、バランスを崩しその場に倒れこんだ。「色気のねェ声」と上に乗っかっている人物は呟くと、「これじゃあ勃つもんも勃たねェ」と付けたした。こんな不仕付けなことを言うのは、あの人しかいない。頭に血が昇ったわたしはお腹に力を入れて「退いて下さい!」と強く言うと、本人は知らん振りの顔をして「イイ椅子ダナア」とわたしの上から退こうとしない。助けを求めようと視線を泳がしてみるが、みんな見て見ぬ振りなのか相変わらずお酒を飲み漁っている。ふと土方さんとも目が合ったのだが、あからさまに逸らされた。ひ、土方さんの裏切り者…!!

「どうでェい、も酒飲みましょーや」
「それわたしの上に乗りながら言うことですか!?」
「細けェこと気にすんじゃねェよ」
「細かくない!!退いて下さい沖田さん!」

 沖田総悟、わたしの上から退こうとしないサディストである。
 普段より緩んだ話し方に少々お酒に酔っているのかと思った。この人でも酔える酒はあるんだと、半ば馬鹿にしながら案外余裕のある自分に嘲笑を浮かべた。いや、笑みなど浮かべている場合じゃあない。客観的に見れば、今のわたしたちの構図は何かとやばいのだ。鈍感なわたしでもわかる。それを知ってか知らずか、定かではないが(百パーセント確信犯だと思うけど)、きっとこの状況を大いに楽しんでいる。「ほら泣いて祈願してみろよ、退いて下さい沖田様〜ってな」────── なんて、フツウの男子が言う言葉じゃない!

「なんでわたしがそんなこと言わなくちゃいけないんですか!」

 バタバタ足を動かして見ても状況は変わらない。暴れたせいで着物は崩れていくし、逆に悪化していっているようにも見える。
 沖田さんは反抗するわたしに対し、「言うこと聞けねェメス豚には王様ゲーム式ポッキーの刑でさァ」と楽しそうにどこからともなく赤い箱を取り出した。そしてうつ伏せ状態のわたしを無理やり仰向けにすると手早く袋の中からポッキーを出し、ニヤリと厭わしい笑みを浮かべた。大体されることを予想しながら、いらないいいです結構です!と何度も言うけれど彼には耳がついていないのか反応もしてくれない。されるがままにポッキー2、3本を口の中に放り込まれると、力んだわたしは思わずポキッポキッとそれを折ってしまった。そのときの沖田さんのなんとも言えない表情に、背筋が凍り固まった。二度目はない、そう感じた。
 (次やったら確実に殺される……!!)
 顎を持たれてゆっくりポッキーを入れられると、わたしは余分な力を入れないように徹した。沖田さんの綺麗な顔がどんどん近づいてきて、目がぐるぐると回りだした。気のせいか、周りがしんと静まり返っているような気がする。さっきまでの喧騒はどこにいった!?みんな傍観者なの!?助けてくれないの!?複雑に思いは交じり合う。15センチ、10センチ、5センチ──────、どんどん縮む距離に耐えられなくてぎゅっと目を閉じる。真っ暗な世界が広がるけれど、香ってくるのは沖田さんの匂い。それだけで体中が熱くなった。


 ────── ポキッ。
 不意にそんな音が聞こえた。ゆっくり、本当にゆっくりと目を開けてみると、さっきまでくっつきそうなくらい近くにあった沖田さんの顔はなくて、ボリボリとポッキーを噛み砕いている沖田さんが目に映った。一気に力が抜けたわたしは「な、なんなんですかほんと沖田さん」と涙交じりに言うと、沖田さんは「気が変わった」と淡々とした口調でぬかす。有り得ない、この人絶対有り得ないと唇を噛み締めて強く思った。

「あのまま続けるとおっ勃ちそうだったんで。それとも公開プレイはお好きでしたかい?」
「死ね沖田ァァ!!!!」



#デメテルの気紛れ
執筆:20100107